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2015年2月11日 (水)

ヤマドリのゆめ ひと里

  不図、山の中で木を運んでいるおじいさんに目が止まった。

おじいさんは運びやすい大きさに木をチェーンソーで切り揃えてから
それを軽トラックに積んでいた。さっきの音はこのおじいさんのところから
聞こえて来たのだろう。
僕はおじいさんの仕事の様子を見たくなり近くに降りた。
  タオルを被り顎で結び、その上から帽子を乗せ、首元には手拭いを巻き
クズが入らないようにしていた。そして腰にはノコと鉈を下げ、足元は
地下足袋に脚絆を巻いていた。全身薄茶色の作業着に紺の手甲と脚絆を
巻いた地下足袋がおじいさんの歩き方の特徴を目立たせていた。
歳は60代後半だろうか。少し腰が曲がり前かがみの肩から下がった腕は、
真っ直ぐ伸ばされたまま小さく振られ、歩幅小さく足を運んでいた。
一本のクヌギの木を切り揃えてから2本だけ残し積み込んだところで、
おじいさんはその2本を並べ顎のタオルを解きながら腰を下ろした。
おもむろに胸ポケットから煙草を取り出すと火を着けた。大きく吸い込んだ後に
半分口から吐き出した頃に唇を閉じ、残りの煙を鼻からゆっくり吐き出した。
帽子を脱いでタオルを取りそのまま額から顔の汗を拭った。
少し煙を楽しんだ後立ち上がり軽トラの助手席からお茶を取り出した。
それからまたクヌギの上に腰を下ろそうとした時、おじいさんは僕に気付いた。
「あっれ、ヤマドリのオンタだー。」
「久っしぶりに見たなぁ。」
「真っ赤な顔して、体も赤けーし、尾っぽも随分長っげーなぁ。」
おじいさんはそう呟くと今度は僕に向かって少し大きな声で話し掛けて来た。
「おい、逃げねーのか?」
「昔は山に入れば結構見掛けたもんだけど最近は全然見なくなったもんなー。」
「おめぇー、もう猟期が終わったから今度は嫁探しで人間なんかお構い無しに
なったんか?」
「オレなんかが小っちぇー頃はいっぺー獲れたんだけどなー。オヤジが
冬になりゃー獲って来てくれて鍋にして食ったもんだでぇ、
キジよりも美味かったいなぁー」
「おめぇー、美味そうだなぁ!」
「最近は山奥行っても、てんで見ねーや。どこ行っちまったんだんベぇ ーなぁ。」
「鳥は見ねーけど、イノシシはよく出るでぇ。最近じゃ、シカも居るしなぁ。」
そう言うとおじいさんは煙草の火を地下足袋の裏で揉み消した。
「はぁてと」
と立ち上がるとまた元の仕度に戻った。 おじいさんは次のクヌギを倒すために
チェーンソーのエンジンを掛けた。
僕はその音で目を覚ました。

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