ヤマドリのゆめ

2015年2月27日 (金)

ヤマドリのゆめ 手掛かりは

   この沢が合流しているところは結構山の動物たちが通るところなのかな?

僕もこの居心地が好きだ。でも、もっと奥まで行ってみないとな。
「今年こそ嫁をさがすぞー!」
僕は沢を登り始めた。大きな岩を見つけるとその都度母衣打ちをした。
今日はゆっくりと進んだ。 遠くからキャッ、キャッと時たま聞こえてきた。
なんの声だろう?近くにいる気配は感じない。いつも同じところから聞こえて
くるわけではないので移動しているのかと思えばまた、前の方向からも聞こえて
くる。たまにギャンという声もする。何かが群れでいるのだろうか?
しばらくすると木の上の方枝が揺れ始めた。何かの影が見える。
カケスではないだろう。
「あっ、サルだ。何頭もいるぞ。」
サル達が木から木に渡りながらこっちに向かってきた。さっきよりもギャンとか
クォッとか鳴いている。 枝が折られるのかバキバキという音も聞こえてきた。
んっ?
「イノシシの親子も居るぞ。」
サル達が来た方からイノシシの団体が来た。母親と、2-30kg位の子供達だ。
「ホントここは賑やかなところだな。」
なんだか嬉しくなった。
「そうだ、サルだったらあの話し知っているかも」
僕はサル達が行った先に飛び込んだ。
「サルさん、この辺りで白いヤマドリを見たことある?」
僕は体の大きな雄ザルに声を掛けた。
「おぅ、聞いたことはあるけど見たことはねーよ。
この沢のずっと奥に居たってよ。大分前だけどな。
俺らの仲間が羨ましくなるほどのハーレムでな、噂だったらしい。
俺たちは助平だからなぁ。そんな話よくしてたもんだよ。」
「白いヤマドリは1羽だけだったの?」
「何羽もいたって聞かねーから1羽だけだったんじゃねーかな。」
「じゃ、もう居ないね」
「たまに白い雛が生まれたって聞いたけど、育たなかったらしい。」
「ありがとう」

2015年2月19日 (木)

ヤマドリのゆめ 決意

   僕は雨の降る中、旅に出ることにした。もうこの沢には戻らない。春になったし

旅先で餌に不自由することはないだろう。目的地はおじいさんの言っていた沢だ。
おそらくこの前行った沢の奥だ。住みかとしてもいい沢だった。この前行ったところ
までで先住者はいなそうだったし。昨日砂肝の中はいっぱいにしておいたから、
今日は一気にあの猪金太にあった場所まで行こう。
そう思うと“えいえいおう”よろしく大きく母衣打ちをした。
   猪金太に会ったところまで来た時はもう西に日が落ちかけていた。僕は右斜面を
登り寝床を探した。慣れないところでは逃げ場所を考えておかなければいけない。
直ぐに下れるところを探そう。 しばらく登っていると、バキッ、バキッと音がして
きた。また猪金太か!と思い目を向けると今度はオスのシカが降りてきた。
立派な3段角を持ったイケメンだった。シカは僕の方へ降りてきたのでドドッと挨拶
した。シカは僕に気付き除けながら
「初めてですね。こんにちは。」 と声を掛けてきた。僕も
「はじめまして。」と挨拶をした。
「久しぶりにヤマドリさんに会いましたよ。半月ほど前にこの奥で会ったきりですかね。」
「半月前ですか。そこには何羽か居たのですか?」
「僕が見たのはメス鳥で2羽居ましたよ。」
「他に近くで見たことはありますか?」
「この沢の下では無いけど、上流ならあるよ。沢山は居ないけどね。」
「じゃ、白いヤマドリを見たことがありますか?」
「白いヤマドリ?白いヤマドリなんて居るのかい?」
「いゃ、いいんです。噂で聞いただけですから」
僕は軽く会釈をして斜面を登った。希望が持てること聞いた。
もしかしたら嫁さんが見つかるかもしれないぞ、と赤い顔が緩んだ。
そうだ、彼は三段シカオさんてあだ名にしよう。

2015年2月18日 (水)

ヤマドリのゆめ むかし話

   僕はおじいさんといた。

「あっ、これはゆめの中だ!」
おじいさんは僕にこんな話をした。
「俺のオヤジが言ってたけど、この山のそのまた向こうの山にある沢をずっと
奥まで行ったところに白いヤマドリが住んでいるんだと。」
「ここから遠く?」
「どんなかぁー分かんねー、それにその沢は幾つも枝沢があるが、どの沢かは
オラー分かんねーなぁー。」
「何度か見たの?」
「2度見たんだとさ。1度目はオヤジの犬が沢の詰まりのところから出したんだ。
でっけー羽音がして沢っ下りして来たけど構える間も無くてなー、真っ白だったんで
ビックリしたんだと。」
「撃たれなかったんだね。」
「2度目もやっぱり犬が出してなー、そん時は赤いヤマが下ってきたんだよ。
オヤジが構えて引き金に指を付けた時に右からその白い奴が横切ったんだと。」
「それで?」
「どっちも獲れなかったんだと。それっきりさぁ。その後何度も行ったらしい
けどな。」
「まだ生きてるかな?」
「さぁな、あれからだいぶ経ってるからな。そいつは生きてねーだんべー。
でもその沢筋には結構鳥がいたみてぇだから血は残ってんじゃなかんベぇか。
あんま人も入んねーだんべーし。」

2015年2月17日 (火)

ヤマドリのゆめ 季節の味覚 春

   翌朝、昨日とは変わり曇り空、僕はいつもより長く岩の上で過ごしていた。

春は暖かな日が続くと急にまた寒さが戻り寒い日が続くことがある。
僕が住む沢では数年に一度4月に雪が積もることがある。せっかく膨らんだ新芽も
ひと休みといった具合。
「今日はシダの新芽を食べよう。そろそろ出ているだろう。」
僕は冬の間はシダの葉なんてもうイヤだって飽き飽きしていた。古い葉は固くて
臭いから。でも冬に青い葉なんてそんなにないし、笹よりましだから我慢して
食べてたけど、新芽は違う。あれは美味い。これからが旬なのだ。
まだ少し顔を出し始めた位なのを一気に飲み込んでしまっては香りを楽しめないので
わざと少しずつ啄むのだ。お気に入りのシダの餌場に向かった。 ここは杉林の下で
雪が降った時でも過ごしやすいので、冬が始まってからは多くの時間をここで
過ごしていた。シダの新芽の季節が終わればここへもしばらく来なくなる。
   昼過ぎになると雨の匂いがしてきた。まだ降り出すまでには2,3時間はあるだろう。
僕は降り出す前に少し木の実を拾っておくことにした。

2015年2月16日 (月)

ヤマドリのゆめ 山の中の音

   目を覚ますと昨日の沢に下りた。もう少し先まで行ってみたかったからだ。

3月だし渡り歩いてくる雌鳥を待ち、縄張りを守らなければならないのだけれど、
雌鳥が来そうな予感がしない。あの沢で僕は今まで一人だった。
僕が暮らしている沢は短く水の量もそれほど多くない。でもこの沢は水の量が
多く比較的緩やかに流れている。幾つか沢が流れ込んでいた。右手の山は
陽当たりが良かった。雑木林が多く、人の手入れが行き届いている様子の杉林は
無かった。   枝沢が流れ込むところが少し開けたところに雑木林になっている
ところがあった。大きな木に枯れた蔓が垂れていた。僕はその下で餌を探す
ことにした。風が無い静かな陽だまり。水が流れ落ちる音が聞こえる以外耳に
入る音が無い。足で落ち葉を掻き分けながら隠れた餌を探した。
鞘の中に少し大きな平べったい豆があった。僕は1つ丸呑みにした。 突然、
左手の斜面の杉林の中でカケス達が騒ぎ始めた。
「何っ?」
僕は首を高くしてカケス達が騒ぐ方を見た、ら、豆が丁度よく胃に入った。
少しすると、ガサガサと、何かが枯れ枝を踏む音が聞こえた。そしてその音は
こちらに近づいてきた。僕は、ドドッ、ドドッと羽を振るわせた。
「イノシシだ!」
大きな黒い体がノッサノサと下ってきた。時より鼻で枯葉を掻き起こしては匂いを
嗅ぎながら。雄の一頭者だ。90kg以上はあるだろうか?僕はもう一度ドドッ、
ドドッと音を立てた。 イノシシはそのまま僕には関心も示さず沢を渡り右手の
斜面を登って行った。
「でっかいキンタマだなー!」
小さな尻に大きさが不釣り合いなものが付いていた。
「猪 金太 また会おう。」
カケス達はギャァギャァ鳴きながら暫くイノシシの上を枝渡りしながらついて
行った。そして僕はいつもの沢に帰ることにした。   何度か羽を使い漸くこの沢に
下りた場所に着いた。このままでは暗くなる前に寝床に着けそうにないので足で
登るのを止めた。今日は結構疲れてたようでちょっとした倒木を飛び越えるにも
嘴を使っていた。寝床に就くと直ぐに眠り込んだ。

2015年2月15日 (日)

ヤマドリのゆめ ぶらりと

「今日はこっちの尾根を越えてみよう。」

この冬、僕は猟師に追われ何度かこの尾根を越えたことがある。
でも長居はしたことが無い。仲間に出会ったことも無かった。
仲間はもっと奥の山に行っているのだろう。僕は日当たりの良いとこを歩きながら
仲間の痕跡を探した。
「この沢を下って水を飲もうか!」
水を飲むと大きな岩を探した。
「こっちの方が僕の沢より大きいな」
岩の周りを歩いても仲間が居る様子は無い。
「この沢を上まで登ってみよう。」
沢沿いに歩きながら餌を探しゆっくりと登った。
今日はいつもの寝床に帰るつもりは無かった。緩い流れが続く。
餌場も豊富にありそうだが、なんで誰も居ないんだろうか。   結局暗くなるまで
誰にも会うことはなかった。
沢沿いを登るのを止め寝床にできそうなところを探した。

2015年2月14日 (土)

ヤマドリのゆめ 攻・防

  おじいさんは自宅の裏斜面にある畑にいた。

5反ほどの畑にはまだ作物はなかった。おじいさんはその畑の周りを囲う電作の

修理をしていた。電作は5段あり随分と厳重だ。僕は勇気を出した。

「おじいさん、なんで電作張ったの?」
「おぅ、きんなのヤマドリかぁ、こりゃぁな、サル除けだぁ。」
「サル入らない?」
「奴らは頭良いから一度入り方ぁ覚えりゃーこんなん効きゃしねー。
サルも居りゃ、イノシシも居るし、シカだって居るしな。
3段が、4段になって5段になったんさぁ。」
「それは大変なことだね」
「たいした物、作ってる訳じゃねーけど、食べられちまうのも悔しーからな。」
「今度は何を作るの?」
「そぉさなぁ、インゲンに、ジャガイモ、トマトにキュウリ、普通の野菜さぁ。
カボチャとサツマイモも作ってるよ。奴らは熟れ頃知ってるからなー。
やられちまえば売れなくならーな。」
「山歩き回るより楽に餌が取れるからね。絶対こっちに来るよね。」
「餌付けしてるようなもんだいなぁ。」
「有難いことです」
「ほーれ、あそこの川見てみな、今日はカワウの餌付けしてるよ。」
目をやるとマスとヤマメの河川放流をしていた。放流された魚たちは流れのハジで
群れになったまま泳いでいた。
「ありゃー釣られる前にカワウの餌だ!」
おじいさんは煙草に火を着け、僕は目を覚ました。

2015年2月13日 (金)

ヤマドリのゆめ 赤胴、響く

  日が昇り始め薄明るくなると僕はいつもの水場に下った。

そして岩に登りまた一時を過ごした。
今日も暖かな穏やかな日になりそうだ。何か良いことがあるかな?
そんな風に考えながら沢を少し登ってから尾根に向かった。途中に日が入り込む
場所がある。僕は朝陽で体を温めながら首から胸の羽を立て体を膨らませた。
そして首を高く伸ばし大きく母衣打ちした。その姿は赤胴を着けた剣士が静寂の中に
スポットライトを浴びているようだった。しばらく耳を澄ませ、また母衣打ちをした。
耳を澄ませるが何も返っては来なかった。
頭の上から首、胸にかけて立てた羽をシュッと戻し、尾根に向かいながら
餌を探すことにした。
尾根に着くともう太陽は真上を過ぎていた。
日当たりの良いところを探し少し休んだ。そして昨日の夢の続きを見た。

2015年2月12日 (木)

ヤマドリのゆめ 主、居らず

  ほんの少しうたた寝をしただけなのに随分長く寝てしまったような気がした。
  今日は風もなく穏やかな日だ。気持ち良さの中で睡魔に勝てなかったが、
こんな日はトンビが空を舞っているものだ。空に目を向けるがトンビの姿は
見当たらない。一先ず安心したが、このまま雑木の中を下るのは止め、杉林の中を
下ることにした。杉林に入ると一気に沢まで下った。沢に下り喉を潤し満足すると、
近くの大きな岩の上に登った。この沢に付いてから3年目の春になる。
   2年前の冬、僕は猟師に追われ仲間たちと散りじりになった。そしてこの沢に
たどり着いた。そろそろ一人立ちをしなければいけない時でもあったし、その時
この沢に付いているライバルが運良く居なかった。それから僕はいつもこの岩の
上で頭を高く上げ一時を過ごすようになった。これも運良くなのか2年間ライバルが
現れることはなかった。
   僕は寝床に向かう帰り、林道で落ち葉に隠れた餌を探した。林道は他よりも暗く
なるのが遅いし、蔓が良く伸びているのでマメや木の実が探し易かった。
少しお腹を満たすことができたので寝床に移り眠りについた。

2015年2月11日 (水)

ヤマドリのゆめ ひと里

  不図、山の中で木を運んでいるおじいさんに目が止まった。

おじいさんは運びやすい大きさに木をチェーンソーで切り揃えてから
それを軽トラックに積んでいた。さっきの音はこのおじいさんのところから
聞こえて来たのだろう。
僕はおじいさんの仕事の様子を見たくなり近くに降りた。
  タオルを被り顎で結び、その上から帽子を乗せ、首元には手拭いを巻き
クズが入らないようにしていた。そして腰にはノコと鉈を下げ、足元は
地下足袋に脚絆を巻いていた。全身薄茶色の作業着に紺の手甲と脚絆を
巻いた地下足袋がおじいさんの歩き方の特徴を目立たせていた。
歳は60代後半だろうか。少し腰が曲がり前かがみの肩から下がった腕は、
真っ直ぐ伸ばされたまま小さく振られ、歩幅小さく足を運んでいた。
一本のクヌギの木を切り揃えてから2本だけ残し積み込んだところで、
おじいさんはその2本を並べ顎のタオルを解きながら腰を下ろした。
おもむろに胸ポケットから煙草を取り出すと火を着けた。大きく吸い込んだ後に
半分口から吐き出した頃に唇を閉じ、残りの煙を鼻からゆっくり吐き出した。
帽子を脱いでタオルを取りそのまま額から顔の汗を拭った。
少し煙を楽しんだ後立ち上がり軽トラの助手席からお茶を取り出した。
それからまたクヌギの上に腰を下ろそうとした時、おじいさんは僕に気付いた。
「あっれ、ヤマドリのオンタだー。」
「久っしぶりに見たなぁ。」
「真っ赤な顔して、体も赤けーし、尾っぽも随分長っげーなぁ。」
おじいさんはそう呟くと今度は僕に向かって少し大きな声で話し掛けて来た。
「おい、逃げねーのか?」
「昔は山に入れば結構見掛けたもんだけど最近は全然見なくなったもんなー。」
「おめぇー、もう猟期が終わったから今度は嫁探しで人間なんかお構い無しに
なったんか?」
「オレなんかが小っちぇー頃はいっぺー獲れたんだけどなー。オヤジが
冬になりゃー獲って来てくれて鍋にして食ったもんだでぇ、
キジよりも美味かったいなぁー」
「おめぇー、美味そうだなぁ!」
「最近は山奥行っても、てんで見ねーや。どこ行っちまったんだんベぇ ーなぁ。」
「鳥は見ねーけど、イノシシはよく出るでぇ。最近じゃ、シカも居るしなぁ。」
そう言うとおじいさんは煙草の火を地下足袋の裏で揉み消した。
「はぁてと」
と立ち上がるとまた元の仕度に戻った。 おじいさんは次のクヌギを倒すために
チェーンソーのエンジンを掛けた。
僕はその音で目を覚ました。

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